石橋の幅は約30センチ、長さ約9メートル、
形は虹のように湾曲し、しかも表面にはびっしりと苔がむしている。
橋の向こうは文殊菩薩の浄土とされており、
天上からは花が降り、つねに妙なる楽の音が流れているという。
そして、この橋を守るのが、文殊の使者である獅子だ。
いかなる高僧、貴僧といえども難行、苦行、捨身の行を積まなければ
この橋を渡ることはできない。
ひとたび足を滑らせば、数千丈もの谷底に真っ逆さま。
未だかつて石橋を渡り、文殊の浄土に足を踏み入れた者はいない。
菊之丞はそんな聖地に、傾城奥州の生霊を出したのだ。
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photo by 和尚