「無間の鐘新道成寺」のヒットから3年後(享保19・1734年)の3月、
菊之丞は『夕霞浅間嶽』(ゆうがすみあさまがたけ)の切り(終わり)に
「風流相生獅子」(「相生獅子」)の所作を出した。
”浅間物”では、裏切った男によって燃やされた起請誓紙
(変わらぬ愛を誓った証文のようなもの)
の煙の中から、傾城の霊(生霊であったり、亡霊であったり)が出て、
男をなじるのものと相場が決まっている。
その最初は「傾城浅間嶽」(1698年・四条早雲座)。
信州浅間神社が、東山浅間明神へ出開帳したのをあて込んで書いた狂言だ。
江戸から上った中村七三郎の巴之丞と、芳沢あやめ(中村富十郎の父)
の傾城三浦役(傾城奥州の恋敵)で古今無双の大当たりを取った。
これは”反魂香”(はんごんこう。反魂とは死者の霊を呼び戻すことをいい、
これを焚けば、煙の中から死者の姿が現れるという、想像上の香)
の趣向替えだが、誓紙を燃やした煙の中から、
奥州の生霊を出したという頓知に、客はうなった。
(これが、しだいにバリエーションを広げ、”浅間物”というひとつの形になるわけだ)
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